2017/06/28

朝はもりそば

原文

朝はもりそば。するする手操り口元へ寄せるそば、少し山葵溶かし、〆るそば湯の香り細くたなびきたる。

昼はかけ。出汁の深みさらなり、七味もなお、香り高くふりかかる。また一味など、迷わず辛くいくもをかし。葱などふるもをかし。

夕はちくわ。磯部揚げてどんぶりの端いとはみ出したるに、葱を入れるとて、三つ四つ、二つ三つなど摘みいれるさえあはれなり。まいてわかめなどの連ねたるが、いと小さく見ゆるは、いとをかし。汁飲み干して、湯の音、油の音など、はた言ふべきにあらず。

夜は春菊。酒の呑みた後は言うべきにもあらず、腹のいと空きしも、またさらでもいと空きに、小銭急ぎ取り出し、券もて渡るも、いとつきづきし。悪酔いて、ぬるく沈みもていけば、嘔吐の後も、白き麺がちになりてわろし。


現代語訳

朝はもりそば(が良い)。するりするりと(そばを)手繰って口元に運び(香りを楽しみながら)食べるのが良く、ワサビを(汁に)少しばかり溶かして、最後にそば湯を注ぐとそばの良い香りが長く鼻腔をくすぐる(のが良い)。

昼はかけ(そばが良い)。出汁の深みは言うまでもなく、ふりかけた七味唐辛子も香り高い(のが良い)。また(七味ではなくて)一味唐辛子の純粋な辛さも趣がある。ネギを入れるのも趣があって良い。

夕はちくわ天(そばが良い)。磯辺揚げ(のちくわ天)が丼を横一文字になり端がはみ出ていて、(テーブルの上に置かれた取り放題の薬味の)ネギを(付属のトングで)三つかみ四つかみ、また二つかみ三つかみなど入れると(つい入れ過ぎてしまった...と)心打たれる。ましてやワカメの波がとても少なく見えるのは、とても趣があって嬉しい。汁まで全て飲み干して(店内から聞こえてくる)釜の湯の音、天ぷらを揚げる油の音などを聞くのは、言うまでもなく(素晴らしい)。

夜は春菊天(そばが良い)。酒を飲んだ後は言うまでもなく、お腹が空いている時も、またそれほどでもなくても、小銭を急いで取り出して(店内入り口付近の券売機で)食券を購入して(店主の居る厨房付近まで)移動するのも、たいそう(飲んだ後に)ふさわしい。悪酔いして、酒に飲まれて吐いてしまうと、嘔吐物がそばで白くなっているのは(見た目が)よくない。





セットも捨てがたい